もう何年も前のことになりますが、あるご葬儀がきっかけで、わたしは表題のようになりたいと思うようになりました。
その日の葬儀式場の祭壇には、ご遺影が二つ、お柩が二つ、並んで安置されていました。
亡くなられたのは、お母様とそのご子息でした。
お母様は数年前に病に倒れ、介護が必要になり、若いご子息は仕事を辞め、自宅で介護されていました。
そして、事件は起きました。
お母様は、自宅のベッドの上で首には電気コードが巻かれ、亡くなられているのが発見されました。
発見された時、介護していたご子息の姿はなく、数日後、山の中で縊死の状態で発見されました。
通夜式の当日、同居していたお祖母様(お母様の母親/ご子息の祖母)はずいぶんと早くから式場に到着されて、一人ぽつんと椅子に座られ、ご遺影を見つめていらっしゃいました。
「まだ開式までお時間がありますので控え室でお休みになられますか。」と声をかけると、それには答えず、こう話し出されました。
「孫は本当に優しい子だったんです。良くやってくれていたんです。わたしがこんなおばあさんになってしまって、思うように手伝ってやることができなかった。本当に優しい子だったんです。」
わたしは、何と答えて良いかわからず、相槌さえも傷つけてしまいそうで、横に腰掛けてただただ言葉を受け止めることしかできませんでした。
その時わたしは、ただただお祖母様にとっての書き心地の良い紙とペンになりたいと思いました。
お客様にとって、安心して話ができる存在になりたいと心から思いました。
追記:日々、虐待死や殺人事件、交通事故死、自死…様々なニュースを目にするたびに、遺された方々はどんな思いでいらっしゃるのだろうかと考えると、胸が痛みます。その辛さは、わたしがどんなに想像してもわかるはずもありません。
大切な方を亡くされた方のお気持ちは、その方にしかわからない。
わたしには、ただただそれを受け止めるのことしかできないのだろうと思っています。
わたしから何かをしようとするのではなく、お客様の気持ちをただただ受け止めた先に見えるものを掬い上げていこうと思っています。
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